2023年7月20日(木) 13:30~ 理学館614
金属の性質は、Fermi面で特徴づけられる伝導電子の振る舞いにより決定される。一般に、Fermi面は様々な相互作用に対して不安定となり電子秩序を形成する。例えば、電子格子相互作用による不安定性により、ギャップが生成され超伝導が発現する。近年、スピン軌道相互作用によるFermi面の不安定性を有する金属に対して「スピン軌道結合金属」という概念が提案された[1]。この不安定によって、結晶の空間反転対称性が自発的に破れ、特異な奇パリティ電子秩序が形成される。スピン軌道結合金属の数少ない物質例として、パイロクロア酸化物Cd2Re2O7は大きな注目を集めている。
Cd2Re2O7はパイロクロア酸化物において初めて見つかった超伝導体(Tc = 1.0 K)であり、200 Kにおける構造相転移において結晶の空間反転対称性が破れ、抵抗率や磁化率などの物性が大きく変化する[2]。我々は結晶の育成条件を最適化することで、純良な結晶育成方法を確立し、これまで見逃されてきた構造相転移[3]などを明らかにし、スピン軌道結合金属の特異な秩序状態の解明に取り組んできた。本セミナーでは、これまでに得られたCd2Re2O7の相転移に関する新たな知見を紹介し、形成される電子秩序や超伝導状態について議論する。また、最近我々が発見したハイエントロピー化合物の新超伝導体についても紹介する。
[1] L. Fu, Phys. Rev Lett. 115, 026401 (2015).
[2] Z. Hiroi, et al., J. Phys. Soc. Jpn. 87, 024702 (2018).
[3] D. Hirai, et al., J. Phys.: Condens. Matter 51, 035403 (2023).
*本コロキウムは 第42回QLCセミナー を兼ねています。